、黒仮面船の水夫衆でござろう。拙者は日本《ひのもと》の武士でござれば、如何なる者をも恐れは致さぬ!」
「天晴れお言葉! 如何様勇士じゃ!」彼等は急に態度を改め、極わめて慇懃になりましたが「そのお言葉にお縋り申し、是非共お願い致し度き儀ござれば、我等とご同行下さるまいか!」――「日本の武士は死をだに辞せず、ましてお頼みとあるからは喜んでお供致しましょうぞ」――「それは千万忝のうござる。然らばご案内……」――「心得申した」
 こんな具合に、この私は、引き止める東六を船へ追い返えし、彼等の後に従って、酒場から出たのでございます。彼等は暗い方へ暗い方へと私を導いて行きました。そして浜の方へ行きました。ものの半刻も経った頃、私達は海岸へ参りましたが、見渡す限り海上は墨のように真黒です。背後は嶮山左右は巉岩《ざんがん》、そうして前は大海です。空には月も星も無く、嵐に追われる黒雲ばかりが海の方へ海の方へと走って行くばかり、真に物凄い場所でした。
 と、一人の黒仮面の男が、手に持っていた松火を高く頭上に差しかざし、海に向かって振りました。すると、眼前の海の底から、ゴーゴーという音が響き渡り、巨大な岩と
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