、
「あれッ」と云う声が聞こえてきた。
はっ[#「はっ」に傍点]と驚いて声の来た方を、夜鷹はじっと隙かして見た。夜眼にも華やかな振袖姿、一人の娘が川下から脛もあらわに走って来たが、
「助けて!」と叫ぶ声と一緒に犇《ひし》と夜鷹へ抱き付いた。それをその儘しか[#「しか」に傍点]と抱き、
「見れば可愛らしいお娘御、こんな夜更けに何をしてこんな[#「こんな」に傍点]所においでなさんす」
「はい」と云ったがなお娘は、恐ろしさに魂も身に添わぬか、ガタガタ胴を顫わせながら、
「はい、妾《わたし》は京橋の者、悪漢共に誘拐《かどわか》され、蘆の間に押し伏せられ手籠めに合おうとしましたのを、やっとのことで擦り抜けてそれこそ夢とも現とも、ここまで逃げて参りました。後から追って来ようもしれず、お助けなされて下さりませ」
「それはまアお気の毒な。いえいえ妾がこうやって一度お助けしたからは、例え悪漢《わるもの》が追って来ようと渡すものではござんせぬ。それはご安心なさりませ」
「はい有難う存じます」
こう娘は云ったものの、不思議そうに夜鷹を眺め、
「お見受けすればお前様もまだ若い娘御こんな夜更けに何をして?」
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