ことだ)
考えながらも宮川茅野雄は、二人の後をつけ[#「つけ」に傍点]て行った。
松倉屋の家庭
宮川茅野雄という若い武士に、後をつけ[#「つけ」に傍点]られているとも知らずに、極東のカリフ様と碩寿翁とは、ズンズン先へ歩いて行った。
と、その時行く手にあたって、一軒の屋敷が立っていた。右は松平駿河守の屋敷で、左はこみいった[#「こみいった」に傍点]お長屋であったが、その一画を出外れた所に、その屋敷は立っていたのである。
武家屋敷とは見えなかったが、随分と宏荘な作り方で、土塀がグルリと取り巻いていた。植え込みは手薄で門も小さくて、どこかに瀟洒としたところはあったが、グルリと外廊《そとがわ》を巡ったならば、二町ぐらいはありそうに見えた。
富豪の商人の別邸と言ったら、一番似合わしく思われる。
その屋敷の門の前まで、極東のカリフ様が行った時であったが、
「雲州の爺々《おやじおやじ》、この屋敷などあぶない[#「あぶない」に傍点]ものだ」
こう云って顎をしゃくるようにした。
「は、あぶないと仰せられますと?」
足をとどめた碩寿翁は、不思議そうに屋敷に眼をやった。
「これはお前には
前へ
次へ
全200ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング