蛭《やまひる》などが落ちて来て、気味の悪さも一通りでなかった。と、その時唸りをなして、一本の征矢《そや》が飛んで来たが、杉の老幹の一所へ立った。矢文と見えて紙が巻いてある。
「はてな?」と、立ち止まった宮川茅野雄は、手を延ばすと文をほぐし取ったが、開いて読むと血相を変えた。
「醍醐《だいご》弦四郎お約束通り、貴殿を付け狙い致してござる」
矢文に書いてあった文字《もんじ》である。
で、茅野雄は顔色を変えて、突っ立ったままで考え込んだ。
思い出されるのは、いつぞやの晩に、醍醐弦四郎という浪人者に、突然切ってかかられたあげく、
「あの巫女《みこ》が占いをいたした以上は貴殿にはほとんど間違いなく、その『何か』を手に入れようとして、努力をなさるようになりましょう。と、拙者とは必然的に、競争をすることになりましょう。もしもそのようになった際にはいつも貴殿の生命《いのち》を巡って、拙者の刃《やいば》のあるということを、覚悟をなされておいでなさるがよろしい」と、このように云った言葉であった。
(それでは醍醐弦四郎という男は、俺と敵対をするために、このように飛騨の山中まで後をつけて来て矢文を射て、
前へ
次へ
全200ページ中70ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング