た巫女の千賀子は、御幣《ごへい》を尚も頭上で振ったが、
「なんの汝に! 切られてなろうか! なんの汝に! 取られてなろうか! ……返せ返せ、我が家の物だ! ……刑部殿、刑部殿、刑部殿!」
するとその声が聞こえたのであろう、露路の奥から応ずる声がした。
「おお千賀子殿か、何事でござる!」
つづいて走って来る足の音がしたが、刑部老人が来るのでもあろう。道服めいた衣裳を着て、払子《ほっす》を持った身長《たけ》の高い翁《おきな》の、古物商の刑部が露路を走って、露路の口まで出て来た時には、しかし松平碩寿翁は、その辺りにはいなかった。月の光を青々と刎《は》ねて、数間の先を走っていた。
「あッ、ありゃア碩寿翁様だ! ……え、あの方があれ[#「あれ」に傍点]を持って? ……ふうむ、さようか、それはそれは。いやそれなら大事ない! 私に取り返す策がある。……が、待てよ、こいつはいけない! ……大変だ大変だかえって大変だ!」
それから三日の日が経った時に、旅よそおいをした一人の武士が、飛騨の峠路を辿っていた。
ほかならぬ宮川|茅野雄《ちのお》であった。
巨木が鬱々と繁っていて、峠の路は薄暗く、山
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