めて善良な正直者たちで」
「なるほど」と老武士は苦笑いをしたが、
「愚老の背後《うしろ》楯は少しく違う。大名衆や旗本衆で」
「大名衆や旗本衆?」
中年の武士は迂散くさそうに、老年の武士の顔を見たが、
「失礼ながらご老人には、いかようなご身分でありますかな?」
少し慇懃《いんぎん》にこのように訊ねた。
「よろしかったらご姓名なども、承りたいものでござりますな」
すると老武士は顎を撫でるようにしたが、
「そう云われる貴殿の素性と姓名とが、愚老には聞きたく思われますよ」
「拙者は醍醐弦四郎と申して、浪人者でござります」
「愚老は雲州の隠居だよ」
「…………」
醍醐弦四郎は仰天して、改めてつくづくと老武士を見たが、
「それでは松平|碩寿翁《せきじゅおう》様で。……が、それにしてはこのような醜悪極まる勘解由店の、刑部《おさかべ》屋敷などへおいでなさるとは、心得ぬ儀にござりますな」
――で、碩寿翁の返辞を待った。
それにしても勘解由店の刑部屋敷とは、どういう性質の屋敷なのであろうか?
勘解由と刑部?
「根津仏町に祈祷者住む、カアバ勘解由と云う。祈祷して曰く、『最も慈悲深き神よ、全智
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