》がその体に備わっていた。もう一人は、六十を過ごしたくらいの、頑丈らしい老武士であったが、これも品位を備えていた。
(追い抜いては失礼にあたるだろう)
 で、茅野雄は後について歩いた。
 すぐに茅野雄の耳についたのは、二人の変わった会話《はなし》であった。
「ああいう品物を手に入れるのは、個人としては危険なのだよ。どうでもあれは昔に返して、亜剌比亜《アラビア》の沙漠の神殿の奥へ、封じ込まなければならないのだよ」
 こう云ったのは若い方の武士で、その云い方には特色があった。すなわちいつも他人に対して、絶対的服従を命じ慣れている――と云ったような云い方なのである。高貴で威厳があって断乎としているうちに、温情があふれ漲《みなぎ》っている。
「これは極東の教主《カリフ》様の、御意の通りと存じます」
 老将軍とでも形容したいような、頑健な老武士はこう応じたが、その声には一種の不快さがあって、信用の置けない老獪な人物――と云ったように感じられた。しかし極東のカリフ様と呼ばれた、若い気高い侍には、一目も二目も置いていると見えて、物言いも物腰も慇懃《いんぎん》であった。
「あの両眼がよくないのだよ。も
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