勘右衛門の小手を打った。
 不意に打たれたことである。勘右衛門が持っていた包物を、取り落としたのは当然と云えよう。
「おい」と弁太が声をかけた。
「おい京助さんそいつ[#「そいつ」に傍点]を拾って、早く行く所へ行くがいいよ」
 それから勘右衛門へ眼をやったが、ニヤニヤ笑うと揉み手をした。
「妹に話がございましてね、参上したのでございますよ。……旦那、やり口があくどい[#「あくどい」に傍点]ようで。妹にだって用事はありましょうよ。その、私用という奴がね。……何の包物だか存じませんが、何か妹に思わくがあって、どこかへやろうとしていますようで。――へい、来かかって小耳へ挿んだので。……いくら旦那でもそんなことへまで、干渉なすっちゃアいけませんな。……おい、京助さん、早くお行き! ハッ、ハッ、ハッ、行ってしまったか」
 小気味よさそうに声を上げて笑った。
 勘右衛門が怒ったのは当然と云えよう。さも憎さげに弁太を睨《にら》んだが、
「うむ、お前さんは弁太殿か、妹をいたぶり[#「いたぶり」に傍点]に参られたと見える。……妹とは云ってもわし[#「わし」に傍点]の女房だ、そうそういたぶっ[#「いたぶっ
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