なさりませ。何か得られるでござりましょう。都《みやこ》へお帰りなさいませ。何か得られるでござりましょう。それが幸福か不幸かは、申し上げることは出来ません」
――で、女は行ってしまった。
(浮世は全く世智辛《せちがら》くなった。何でもない普通の占いをするのに、運命をお買いなさいませなどと、さも物々しく呼び止めて、度胆を抜いて金を巻き上げる。男でもあろうことか若い女だ。昼でもあろうことか更けた夜だ)
茅野雄は、苦笑を笑いつづけながら、下谷の方へ歩き出した。そっちに屋敷があるからである。
ここは小石川の一画で、大名屋敷や旗本屋敷などが、整然として並んでいて、人の通りが極めて少ない。南へ突っ切れば元町《もとまち》となって、そこを東の方へ曲がって行けば、お茶の水の通りとなる。
その道筋を通りながら、宮川茅野雄は歩いて行く。女巫女の占った運命のことなど、今はほとんど忘れていた。
(仕官しようか、浪人のままでいようか)
この日頃心にこだわっている、この実際的の問題について、今は考えているのであった。
(せっかく仕官をしたところで、長崎仕込みの俺の蘭学を、活用してくれなければ仕方がない。それ
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