るがよい」
 こう云った時には慶正卿は、既に一匹の野馬の背へ、翻然として飛び乗っていた。
 そうして飛び乗った、次の瞬間には、大森林を縫って走らせていた。
 その後からこれも野馬に乗った碩寿翁が走らせていた。

 はたしてこの頃丹生川平では、恐ろしい事件が起こっていた。
「さあ火をかけろ!」
「火で焼き切れ!」
「どうでも扉はひらかなければいけない」
 洞窟の入り口に屯《たむろ》している、丹生川平の郷民達は、こう口々に喚きながら、枯れ木や枯れ草をうず[#「うず」に傍点]高いまでに、洞窟の扉の前に積んだ。
 茅野雄と浪江が郷民を切って、洞窟の内へ入り込んで、内から扉をとじてしまった。呼んでも呼んでも返辞をしない。扉をあけろと命じても、番人は返辞《いらえ》さえしようとしない。
 で、郷民達はこう思った。
(茅野雄が番人を切り殺し、内側から閂をかって[#「かって」に傍点]置いて内陣の方へ行ったのであろう)と。
 内から閂をかった[#「かった」に傍点]が最後、外からは開かない扉であった。火をかけて焼いて焼き切るより、開く手段はない扉であった。
 しかし郷民達は躊躇した。
(浪江殿は教主覚明殿の
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