の中を白河戸郷をさして、歩いていた一ツ橋慶正卿は、にわかにこう云って碩寿翁達を見た。
「それはまた何ゆえでございますかな?」
こう碩寿翁は意外そうに訊いた。
「お前達みんなが取り合おうとしている、その[#「その」に傍点]物が人の手に渡ろうとしている」
「いやそれは大変なことで! ……しかしどうしてそのようなことが?」
「わし[#「わし」に傍点]だけには解る理由があるのだ」
「ではこうしてはおられませんな」
「それに二人の立派な男女が、虐殺の憂目に逢おうとしている」
「丹生川平《にゅうがわだいら》ででございますかな?」
「そうだ、丹生川平でだ」
「急いで行こうにも道程《みちのり》はあり、ことには歩きにくい森林ではあり……」
「そうだ、どうも、それが困る」
慶正卿はこう云ったが、四辺《あたり》に放牧されている、野馬の群へ眼をつけると、
「うん、ちょうど野馬がいる。これへ乗って駈け付けることにしよう」
「よい思い付きにございます。では私もお供しましょう」
「刑部《おさかべ》老人と千賀子殿とは、まさか野馬には乗れまいな。またお前達二人などは、急いで駈けつける必要はない。後からゆっくり来られ
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