しそれにしても碩寿翁が、さっき方この部屋を覗いた時には、客がなかったはずである。
それだのに今は二人もいる。
これはどうしたことなのであろう?
思うに二人の男と女は、どこか別の部屋にいたのであったが、この時その部屋から忍び出て、この部屋へ潜入したのであろう。
と、この部屋へ一筋の、細い明るい光の縞が出来た。
男が襖をあけたので、隣りの部屋の行燈の火が、隙間から射して来たのであった。
「あッ」と、云う声が突然に起こった。
「大変だ! 割りおる! 二つに割りおる!」
つづいてこう云う声がした。
「汝《おのれ》! 無礼! 覗きおったな!」
間髪を入れず風を切って、物を投げる音がヒューッとした。
しかし、続いて清浄と威厳と、神々《こうごう》しさを備えたような声が、どこからともなく聞こえてきた。
「物は完全に保つがよい! 美しさも神聖さも完全にある! ……碩寿翁、碩寿翁、物をこぼつな!」
この時碩寿翁は刀を抜いて、部屋の一所に立っていたが、その眼は細く開けられている、襖の一方に注がれていた。見れば襖の縁の辺りに、碩寿翁が投げたらしいメスが一本、鋭く光って立っていた。
「…………
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