味の悪い老人であったが、もう一挺の駕籠から現われたのは、美しい若い女であった。
この二人はどうやら連れと見えて、二言三言囁いたかと思うと、打ち揃って奥の部屋へ通って行った。
その後でも幾組か泊まり客があったが、特に目立つような客はなかった。
全く日が暮れて夜となった。
「お泊まりなさいまし」「柏屋でございます」「へいへいこれはお早いお着きで」――などと云っていた出女の声も、封ぜられたようになくなって、萩村の駅は寂静《ひっそり》となった。
こうして夜が次第に更け、柏屋でも門へ閂《かんぬき》を差した。客も家の者も寝《しん》についたらしい。
で、何事もなさそうであった。
では何事も起こらなかったか?
いやいや変わった事件が起こった。
奥に一つの部屋があったが、消えていた行燈《あんどん》が不意に点《とも》り、ぽっと明るく部屋を照らした。
見れば一人の老武士が、床から起きて行燈の側《そば》に、膝を揃えて坐っている。
老武士は?
二番目に着いた駕籠の中から、立ち現われた老武士であった。
何やら口の中で呟いたかと思うと、老武士は部屋の中を見廻した。と、にわかに立ち上った。そ
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