叩いたが、
「勿論拙者にはその娘ごの、身分も存ぜねば名も存ぜぬ。また娘ごと貴殿との間の、交渉も知らねば関係も知らぬ。が、偶然来合わせて、この眼で貴殿の悪行を――さようさよう打ち見たところ、貴殿には正義の武士でなく、この出来事は悪行らしゅう厶《ござる》。――で、貴殿の悪行を、認めた以上は打ち捨ては置かれぬ。貴殿に制裁を加えた上で、その娘ごをお助けせねばならぬ」
ここでまた茅野雄は右の手でトントンと刀の柄頭を打った。
「娘ごを放しておやりなされ! 否と申さば太刀打ち申そう! いかがでござる! いかがでござる!」――で、右手で刀の柄を握り、拇指《ぼし》で鯉口をグッと切った。抜き打ちに切ろうとする足の踏み方だ、右足を一歩前へ踏み出し、左足のかかと[#「かかと」に傍点]を軽く上げ、体全体を斜めにして、刀の柄を握った上にソリを打たせて上へ上げたので、右の手の肘が矩形《くけい》をなして、胸の上まで上ったのを、拍子取るように揺るがして、弦四郎の眼を睨み付けた。否と云ったならばただ一刀に、弦四郎の左の胴からかけて、胸まで割り付ける意気込みであった。握った手に余った柄頭の、金具が日の光に反射して、露が溜
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