、神殿の内陣へ入れて貰おう。入ったが最後盗んで逃げよう。碩寿翁をはじめ四人の者が、どのような権威者であろうとも、行ってすぐに覚明殿に談じ込んだところで、覚明殿にはおいそれ[#「おいそれ」に傍点]と、四人を内陣へは入れないだろう。四人が内陣へ入らない先に、小枝を奪って丹生川平へ帰ろう)
 で、弦四郎は部下を急がして、白河戸郷の方へ足早に進んだ。

 ここは洞窟の内部であって、暗々《あんあん》とした闇であった。
 と、その闇の一所から、男女の囁く声がした。
「浪江殿、これからどうしましょう?」
「とうてい外へは出られません。奥へ参ることにいたしましょう」
 男女は茅野雄と浪江とであった。
 郷民達に襲われたので、茅野雄は殺生とは思いながら、幾人かの郷民を叩っ切り、浪江を連れて逃げ廻るうち、岩山の洞窟の口まで来た。と、洞窟の口があいた。外の騒ぎが烈しかったので、洞窟を守っていた番人が、外の様子を見ようとして、内部から扉を開けたのであった。
 そこで茅野雄は(しめた!)と思った。(洞窟の中へ入ってやろう)――で浪江を引っ抱えて、洞窟の中へ突き進んだ。と、番人が切ってかかった。それは峰打ちに叩き仆して置いて、茅野雄は中から扉を閉じ、ガッシリと閂《かんぬき》を下ろしてしまった。
 ――で、今、洞窟の中にいるのであった。
 外から大勢の郷民達が、扉を叩いたり喚き声を上げたり、番人に向かって扉をあけるようにと、命じている声が塊《かた》まり、ワーンというように聞こえてきたが、番人は気絶をして仆れていた。なんの扉をあけることが出来よう。
 で、今のところ茅野雄も浪江も一時安全を保つことが出来た。
 とは云えいつまでも洞窟の中に、隠れていることは出来そうもなかった。食べ物だってないだろう。飲み水だってないだろう。
 しかしながら外へは出られなかった。出たが最後に二人ながら、兇暴になっている郷民達のために、私刑にされるに相違ないのであるから。
「そう、とうてい今のところ、外へ出ては行かれますまい。そう、それではともかくも、奥へ進んで参ることにしましょう」
 こう云うと茅野雄は奥へ向かって歩いた。
 と、浪江が囁くように云った。
「行く先に幾個《いくつ》か関門があります。そこには番人が守っております。……妾《わたくし》、先へ立って参りましょう。妾が声をかけましたら、番人達は扉をひらきましょう。と云うのは、妾と父上とばかりが、関門をひらかせる特別の権利を、持っているからでございます」

恐ろしき予感

 そこで浪江は先へ立って進んだ。
 はたして関門が行く手にあった。
「ね、妾だよ。門をおあけ」
 浪江は何気なさそうに声をかけた。
 と、内側から男の声がした。
「ああお嬢様でございますか。……が、今頃何のご用で?」
「妾はおあけと云っているのだよ。……何の用であろうとなかろうと、お前には関係のないことだよ。……門をおあけ! ね、おあけ」
 内側では考えているようであったが、やがて閂を外すらしい、軋《きし》り音《ね》が鈍く聞こえてきて、やがて関門の扉があいた。
 内側に燈火《ともしび》があったと見えて、開けられた扉の隙間から、ボッと光が射して来た。
 が、すぐ隙間から顔が覗いた。
「お嬢様、……背後《うしろ》におられるお方は?」
 覗いたのは番人の顔であって、浪江の背後に佇んでいる、茅野雄に疑問をかけたのであった。
 しかしその次の瞬間には、簡単な格闘が演ぜられていた。扉を押しひらいて内へ入った茅野雄が、組みついて来た番人の急所へ、あて身をくれて気絶をさせ、猿轡《さるぐつわ》をかませ手足を縛り、地上へころがしてしまったのである。
 茅野雄と浪江とは先へ進んだ。燈火《ともしび》が仄《ほの》かに点《とも》っていて、歩いて行く二人の影法師を、しばらくの間行く手の地面へ、ぼんやりと黒く落としてい、左右の岩壁に刻られてある、奇怪な亜剌比亜《アラビア》の鳥類の模様を、これもぼんやりと照らしていた。
 やがて二人の姿は消えた。
 道が左の方へ曲がったからである。
 が、間もなく二人の姿は、第二の関門の前に来ていた。
「ね、妾だよ、門をおあけ」
「ああお嬢様でございますか! ……が今頃何のご用で?」
「妾はおあけと云っているのだよ。……何の用であろうとなかろうと、お前には関係のないことだよ。……門をおあけ! ね、おあけ!」
 以前《まえ》と同じような問答の後に、関門の扉が同じように開けられ、そうして同じような格闘が、以前のように行なわれたあげく、番人が地上へころがされ、茅野雄と浪江とが先へ進んだ。
 こうしてまたも関門へ出、同じような状態で関門を破り、先へ進んで行った時、茅野雄と浪江とは前の方に、一つの怪異な光景を見た。

「これは大急ぎで行かなければいけない」
 大森林
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