までうなずきました。
「そこでお前様には二人の男へ、双方義理を立てるために、入水などなされようと覚悟されましたので?」
 お蘭は黙ったままでうなずきました。
「そこで」
 と左衛門はまたいいましたが、その声には皮肉がありました。
「そこでもう一つおうかがいをしますが、そのお二人の男の方の、お身分は何なのでございますか?」
 するとお蘭は云おうか云うまいかと、躊躇したようでありましたが、思い切ったようにいいました。
「一人のお方は源次郎様と申して、この里を支配なされていられる、大庄屋のご次男様でございますし、もう一人のお方は喜之介様と申して、江戸の大きな絹問屋の、若旦那様にございます。源次郎様と喜之介様とは、お家がご親戚でありますので、久しい前から保養のために、喜之介様には源次郎様のお家へ、参られているのだそうでござります」
「成程」
 と左衛門はいいましたが、いよいよその声には揶揄《やゆ》するような、皮肉な調子がありました。
「で、お前様にはお二人の中《うち》、どちらを愛していられますので?」
 するとお蘭は物憂そうに、
「私はまことはどのお方をも、お愛ししているのではございません。た
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