した。と、その時一人の男が、こっそりとこっちへ近寄って来た。今まで勝手口でお三どんを相手に、油を売っていた仙介であった。
「おやおやこれはお嬢さんで、……日向《ひなた》ぼっこでございますかな」
こんなことを云いながら近寄って来たが、抛り出されてある人形を見ると、すぐに取り上げてじっと[#「じっと」に傍点]見た。
「…………」
何んとも云いはしなかったが、仙介の眼の光ったことは! とにわかに「痛い!」と云った。
見れば仙介の拇指《おやゆび》から、血がポッツリと吹き出している。人形の胎内に針があって、強く握った時それの先が、拇指の一所を刺したものと見える。
「そうか!」と仙介は思いあたったように云った。
「これですっかり見当が付いた!」
どうしようかと云ったように、一瞬仙介は考え込んだが、チラリとお京へ眼を移してから、素早く人形を懐中しようとした。が、その時植え込みの背後《うしろ》から、
「お嬢様!」
と呼ぶ声が聞こえて来たので、あわてて仙介は人形を取り出し、お京の膝の上へ投げるように置き、庭を横切って姿を消した。それと引き違いに姿を現わしたのは、他ならぬ小間使いのお菊であった。
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