てられたのである。
五
事件は過去へ帰らなければならない。
隅田川の畔《ほとり》、小梅の里に、風雅と豪奢《ごうしゃ》とを兼ね備えた、柏屋の寮が立っていた。一人娘のお島というのが、乳母や小間使いに守られて、寂しく清く住んでいた。
父母に逝《い》かれた孤児であった。が、日本橋の店の方は、古い番頭や手代達によって、順調に経営されていた。お島が柏屋の戸主であった。しかし女であり未婚であり、年若であるところから、叔父の勘三が後見をしていた。
寮に住居をしているのは、父母に逝かれた悲しさから、気欝の性になったのを、癒《いや》そうとしてに他ならなかった。
ところが今から一月ほど前から、彼女は不思議な病気となった。真夜中になると唐突にも、胸に痛みを覚えるのである。それも尋常の痛みではなくて、鋭い刃物か針のようなもので、心臓をえぐられるか刺されるかのような、そう云った烈しい痛みなのである。そういう病気を得て以来、彼女は見る見る衰弱した。いろいろの医者にも診て貰ったが、病気の原因《もと》は解らなかった。
そういう病気の起こる前に、叔父勘三の指金《さしがね》で、お菊という女を
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