月見草の花が咲いていて、早生まれの松虫が鳴いていた。少し行くと松林であり、松林の中に家があった。みよし屋の賃貸しの寮なのである。寮には灯火《ともしび》が点いていなかった。が、人声は聞こえていた。
「館林様なんかいいかげんなものさ」不意に声高に云う者があった。「甘いお方さ、大甘者さ!」
館林様は足を止めた。すぐに我輩は館林様へ云った。
「あなた様のお噂をしております。つまらない手合でございましょう、お気にかけてはいけません。さあさあ先へ参りましょう」
しかし館林様は動かなかった。と、別の声が聞こえて来た。
「要するにあのお方は人形なのさ。看板と云ってもいいかもしれない。俺らを使っているなどと、あのお方は思っていられるようだが、その実あのお方こそ俺達六人に、あやつられ[#「あやつられ」に傍点]ておいでなさるんだからなあ」
「そうとも」と別の声がした。「あのお方が俺達を贔屓《ひいき》にしている、――と云うことが知れているので、俺ら相当悪事をしても、お官《かみ》では目こぼし手加減をしてくれる」
「そうだそうだ」と別の声がした。「要するにあのお方は丸袴《がんこ》の子弟さ。自惚《うぬぼれ》の強
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