……お蔭で私は財を貯えた。お前に善用して貰いたい。私と違って学究のお前だ。その方面で尽くしてくれ。娘を頼む、三保を頼む」

 後日貝十郎は人に語った。「征矢野周圃といえば木曽の蘭医で、骨格の研究では最も早く、よい文献を出している人で、その方面では有名なのだそうです。隼二郎がつまり周圃なのです。例の二つの骸骨で、実地研究をしたのだそうです。お豊という女は悪人ではなく、周圃が江戸にいた頃から、周圃を愛していた女なので、周圃が木曽へはいってからは、家政婦として入り込んで来て、周圃の研究を助けながら、周圃と夫婦になろうとしたのです。ところが周圃は真面目なので、姪のお三保に婿を取るまでは、夫婦にならないと云っていたのです。そこでお豊は弟を呼び寄せ――鏡太郎というのはお豊の弟で、これも大した悪人ではなく、軟派の不良の少年だったのですが、弟とは云わずに附近に住ませ、お三保とくっつけ[#「くっつけ」に傍点]ようとしたのです。お三保が誘惑に応じないので、誘拐しようとまでしたのです。だが可哀そうに鏡太郎もお豊も、猪之助に切られたのが基となって、間もなく死んでしまいました。猪之助ですか、ありゃア解りません。
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