来なかったら財産を渡せ――こう云って強請《ゆす》ったということで」
「ところがその男もいつの間にか、姿が失《な》くなってしまったそうで」
「そこで私はこう思いますので」村医者らしい老人は云った。
「ここの屋敷を掘り返したら、浮ばれない無縁の二つの仏が、白骨となって現われようとね」
「まさにね」と寺子屋の師匠が云った。「と思うとここにあるご馳走なども、血生臭くて食えませんよ」
「先代が裏庭の松の木の枝で、首を縊って死んでいたのを、私は検屍をしたのでしたが、厭な気持ちがいたしましたよ」
「私は現在ここの娘の、お三保さんに読書《よみかき》を教えているのですが、どうも性質が陰気でしてな」
(なるほど)と貝十郎はまた思った。(そういう事件があったのか。ここの先代は悪人なのかもしれない)
(しかし)と貝十郎はすぐに思った。(田舎の旧家というような物には、荒唐無稽で出鱈目な事が、伝説のような形を取って、云いつたえられているものだから、そのまま信用することは出来ない)
――それにしても主人の隼二郎も、娘のお三保と接待の席へ、何故姿を見せないのだろう? このことが貝十郎を不思議がらせた。
袴羽織の召
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