さ勾坂甚内、大泥棒にも似合わねえドジな真似をするじゃねえか」
 両手を袖へ引っ込ませると、バラバラと落ちて来た小判|幾片《いくひら》。甚内が蒔いたさっきの小判だ。
「黒田様の刻印が打ち込んであるのが解らねえか」
「え?」
 と甚内は今さら驚きムズと小判をひっ[#「ひっ」に傍点][#「小判をひっ[#「ひっ」に傍点]」は底本では「小判をひ[#「をひ」に傍点]っ」]掴んだ。いかにも刻印が押してある。
「むう」と唸るばかりである。
「なんと一言もあるまいがな。さあ早く仕度をするがいい。大門口は出られめえ。家《うち》の裏木戸を開けて進ぜる」
「そう急《せ》き立てるところを見ると、さてはもう手が廻ったか!」
「徒党を組んだ盗賊が黒田様の宝蔵を破り莫大の金子を奪ったについては、晩《おそ》かれ早かれここら辺りを徘徊するに相違ないから、怪しい者の目付かり次第届け出るようにと布告《ふれ》の廻ったはつい[#「つい」に傍点]今日の昼のこと、したがってこの辺一円は同心目明しの巣のようなものだ。のっそり[#「のっそり」に傍点]迂濶《うかつ》に出ようものなら、すぐに御用の声を聞こう。まあ俺に従《つ》いて来な、悪いよ
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