ら蒲鉾小屋にいる。――という風流にもなろうけれど、どうもその後が似合わしくない」
「何んでござるな、その後とは?」
「矢っ張り夫れさ、名刀さ」
「ははあ名刀が邪魔しますかな」
「どだい風流というやつは、人間をノンビリさせ茫然《ぼんやり》させ、生鼠にするのに役立つものでな、そこに風流のよい所がある。ところが刀というやつは、人間を頑張りにし意地っ張りにし、肘を張らせるに役立つものさ。このまるっきり反対のものを、一緒に引っかかえている以上、大通の酔興とはいわれないよ」
「これはご尤」と頬髯の濃い武士、照れたように苦笑を浮かべたが「貴殿のお見立て伺い度いもので」
「何んでもないよ、名を売りたがっているのだ。いい換えると評判を立てたがっているのさ」
「あああ評判を? 何んのために?」
「高く売ろうとしているのさ、彼奴の持っている何かをな?」
「ああ夫れでは名刀を?」
 するとクスリと総髪の武士、酸性の笑いを浮べたが「そうそうこだわっ[#「こだわっ」に傍点]ては不可《いけ》ないよ、ああ然うだよ。名刀ばかりにな」
「ははあ左様で、名刀め、今度は役に立ちませんでしたな。……夫れでは一体どんなものを?」
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