訊いたのは総髪の武士、相手を験《ため》すらしい口調である。
「さよう」といったのは頬髯の濃い武士。「由縁ある武士が乞食に窶し……」
「親の仇でも討とうというので?」
「いかがかな、この見立ては?」
「どういうところから思い付かれたな?」
「名刀所持とあってみれば……」
「だが時々その名刀を、スッパ抜いて見るというではないか」
「それが何とか致しましたかな?」
総髪の武士笑ったが、「目付かる敵でも逃げてしまうよ」
「ははあ」といったが解らないらしい。
「俺は敵討ちだ敵討ちだ、披露目をしているようなものだからの。だって貴公そうではないか」総髪の武士ニヤニヤと揶揄《やゆ》するようにいい出した。「蒲鉾小屋に住んで、襤褸を着て、名刀を所持してスッパ抜く、ちゃァんと敵討ちに出来ている。そんな噂を耳にしてごらん、狙われている敵は飛んでしまうよ。そうでなかったら衆を率い返討ちにして殺してしまうだろう」
「成程」と今度は判ったらしい。「敵討ちでないとしますると、何処かの大通が酔興のあまり……」
「その見立ても中《あた》らないな」総髪の武士蹴飛ばしてしまった。「いかさま茶を立て遊女を侍らせ、香を焚きなが
前へ
次へ
全22ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング