「うむ」という総髪の武士、俄《にわか》に真面目の顔になったが「彼奴自身、そのもの[#「そのもの」に傍点]であろう」
「あッ、成程、わかりました。太公望を気取っているので?」
「この見立は狂うまいよ」
「では武王が無ければならない」
「その武王こそ我々なのさ」
ここで二人共黙って了った。
ひっそり部屋内静かである。
と、俄に声をひそめ、総髪の武士いい出した。
「大坂城代土岐丹後守、東町奉行井上駿河守、西町奉行稲垣淡路守、この三人を抑えつけた今日、我々の企て八分通りは成就したものと見てよかろう。後の二分とてこの順で行けば、先ず先ず無難と睨んでいい。さて所で我々の企て、いよいよ成就となった日には、お互大変なことになる。浪人から一躍大名になれる。そこでだ」といって来て総髪の武士、例の酸性の笑い方をしたが「いろいろの武士ども仕官したがっているなあ。そこで其奴も……その乞食も、仕官亡者と目星をつけても、大概外れることはないではないか。仕官亡者に相違ないよ。しかも奇矯な振舞いをして、世間にパッと評判を立て、その評判を我々に聞かせ、迎いに来るのを待っている奴だ。で、二通りに解釈出来る。山師かそ
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