も十歩百歩、神部要助という伯母の亭主を、これまた殺しているのだからな。事もあろうにこれらの三人、目上の者を殺している。天人共に許さざる奴等、そこで刑死をさせてやろうと、大岡越前の手の中へ、わざわざ捕らせにやったのさ。そこへ行くとお前は少し違う。野武士時代にはあばれもしたろうが、恩顧を蒙った目上の者を、殺したことはないのだからな。そうして俺に至っては、人を殺《あや》めたことはない。で多少は許されるだろう。そこでお前に贋病《けびょう》を使わせ、そうして俺も贋病を使い、二人だけ此処へ残ったってものさ。……さあさあ大膳腹を切ろう。まごまごしていると捕方が来る。それにしても」と伊賀之助、苦渋の色を顔に浮べた。「淀川堤に住んでいた、乞食のことが気にかかる。……彼奴見抜いていたのだな! 今日のことを、露見のことを!」
ドッとその時戸外にあたり、閧《とき》を上げる声が聞えて来た。つづいて乱入する物の音!
「いよいよ不可ねえ、さあ大膳、捕方が向かった、腹を切ろう!」
差添を抜いた伊賀之助、腹へ突っ込もうとした途端、捕方ムラムラと込み入って来た。
「おのれ?」
と飛び上がった赤川大膳、太刀を揮うと飛
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