暁だ! 隣室《となり》では嘔吐《へど》を吐いている。よし! 出来た!」
と、思わず叫び、側の短冊を取り上げた。
スラスラと書いたその一句は……
[#ここから2字下げ]
あかつきの
嘔吐は隣りか
ほととぎす
[#ここで字下げ終わり]
狭斜の巷の情と景とを併わせ備えた名句として、其角の無数の秀句の中で嶄然頭角を現わしているこの「ほととぎす」の一句こそはこういう事情の下に出来上がったのである。
翌日隣室に若い侍が、毒を飲んで一人死んでいた。前髪立ての美男であって、浦里のもとへ通って来た嫖客の一人だということであったが、それかあらぬか浦里は、自分親しく施主に立って立派な葬式を営んだため、噂がパッと拡がった。しかし間もなくその浦里も奈良茂のために根引きされて、吉原から姿を隠したので、廓《さと》の名物を失ったといって、嘆息しない者はなかったが、名物といえば江戸名物の紅白縮緬組もそれ以来パッタリ市中へ出ないようになって、次第に噂も消えて行った。
それにしても暁杜鵑之介と宣《なの》った、美しい若衆は何者であろう? 何んのために自害したのであろう?
古い当時の記録を見ると、次のようなこ
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