と、不意に、紋十郎は、若衆の後から声を掛けた。ハッとして若衆は立ち縮《すく》んだ。
「寸志でござる。お受け取りくだされい」
一葉の紙を突き付けた。
若衆は無言で受け取って月の光で透かして見たが、
「や、これは某《それがし》が人相書き!」
「今夜のお礼に差し上げ申す――貴殿の今宵の働きに懲《こ》りて、白縮緬組の悪行も自然根絶やしになろうと存ずる。管轄違いの我らの手では取り締まりかねたこの輩を天に代わってのご制裁、お礼申さねば心が済まぬ。寸志でござればお収めくだされい」
若衆は深く感動したが、言葉もなくて首垂《うなだ》れた。
「ご芳志有難くお受け申す」感情を籠めていうのであった。
その同じ夜の暁であったが、其角《きかく》は揚屋の二階座敷の蒲団の上に端座して、じっと考えに更けっていた。
先刻一蝶と約束した、読み込みの句が出来ないからで、禿《かむろ》の置いてあった酔い醒めの水を立て続けに三杯まで呑んで見たが、酔いも醒めなければ名案も出ない。
仄《ほの》かな暁の蒼褪めた光が戸の隙間から射し込んで来て、早出の花売りの触れ声が聞こえる時分になっていたが、彼の苦吟は止まなかった。
「余
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