若衆である。投げ捨てた刀を拾い上げ、パチリ鞘に収めてから袴の塵《ちり》をハタハタと払い、
「千代はどうした。見て参れ」
「おおそうじゃ。お嬢様……」
行きかかる時、人家の軒から、粛々と進み出た三人の武士。その三人に囲まれながら、頸垂《うなだ》れて歩むのは女であった。
「千代か?」と若衆は声をかけた。
「あいや暁杜鵑之介殿。お妹ごまさしくお引き渡す間、その女人こちらへお譲りくだされい」
三人の武士のその一人が、ツカツカと前に進み出ながら、慇懃の言葉でこういった。
「何人でござるぞ? そう仰せらるるは?」
若衆も前へ進み出た。ぴったり二人は顔を合わせたのである。
武士は言葉を潜めたが、
「北条安房守配下の与力、鹿間紋十郎と申す者でござる」
「む。ご貴殿が鹿間殿か――してあの女人は何人でござるな?」
「あれこそ、お伝の方でござる」
「…………」
若衆は無言で頷いた。そうして改めて女人を見た。
「いかにもお譲り致しましょう」
「お譲りくださるか。忝《かたじ》けない。いざお妹ごをお渡し申す」
「千代、袖平、参ろうかの」
悠然と若衆は歩を運んだ。
六
「由井殿!」
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