の武士の群れであった。
白縮緬の一群は、四方に眼《まなこ》を配りながら、人家の前を悠々と今まさに通り過ぎようとした。
つとその行く手を遮ったのは紅縮緬の若衆である。
「その駕籠止めい!」
と、絹を裂くような声。
乗り物はタタと後へ引いた。十人の武士はその周囲《まわり》をグルリと囲んで立ち止まった。いずれも刀へ手を掛けている。
「やあ汝《おのれ》は紅縮緬組の杜鵑之介《ほととぎすのすけ》とかいう奴よな。しつこくまたもや現われて、止めだてするとは無礼の痴人《しれもの》! とくそこを退け! 退きおろう!」
「痴人《しれもの》というのはそち達がことじゃ。先夜上野の山下で初めて汝らに巡り合い滾々《こんこん》不心得を訓《さと》したにも拘《かか》わらず、今夜再び現われ出で、押し借りの悪行を働くとは天を恐れぬ業人ばら。今宵こそ容赦致さぬぞよ」
若衆の声は凛々と響き、鬼をも挫《ひし》ぐ勢いがある。
白縮緬の一群は、気を呑まれて一刹那《ひとしきり》静まったが、権を笠に着て盛り返した。
「この御乗り物に在《おわ》すお方を、何んと心得て雑言するぞ!」
「女郎《めろう》一人に犬一匹を、大丈夫たる者が恐
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