もある。女の心などはまずそれだ。自由にならないから面白いとも云える。それを怒ったでは野暮というものだ」心の中ではこんなようにさえひそかに考えているのであった。
佐々木玄龍は所用あって今日は座席には来ていなかった。
「宗匠、何んと思われるな、紅縮緬《べにちりめん》のやり口を?」一蝶は其角に話しかけた。
「それがさ、実に面白いではないか。白縮緬《しろちりめん》に張り合って、ああいう手合いが出るところを見ると、世はまだなかなか澆季《すえ》ではないのう」
其角は豪放に笑ったが、
「この私《わし》に点を入れさせるなら、紅縮緬の方へ入れようと思う」
「私《わし》にしてからがまずそうじゃ。紅縮緬の方が画に成りそうじゃ」一蝶はそこで首を捻ったが、
「それにしても彼奴ら何者であろうの? いつも三人で出るそうじゃが」
「いやいやいつもは二人じゃそうな。一人は若衆、一人は奴《やっこ》、紅縮緬で覆面して夜な夜な現われるということじゃ。もっとも時々若い女がそれと同じような扮装《みなり》をして仲間に加わるとは聞いているが」
「さようさよう、そうであったの……何んでもその中の若衆が素晴らしい手利きだということじ
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