ゃの。暁|杜鵑之介《ほととぎすのすけ》とかいう名じゃそうな」
「いずれ変名には相違ないが、季節に合った面白い名じゃ」しばらく其角は打ち案じたが、「暁に杜鵑か、それで一句出来そうじゃの」
「お前がそれで一句出来たら、私が一筆《ひとふで》それへ描こう」
「いや面白い面白い」
そこへこれも取り巻の二朱判吉兵衛が現われたので、にわかに座敷が騒がしくなった。
「やい、吉兵衛、よく来られたの!」
奈良茂の癇癪《かんしゃく》は吉兵衛を見ると一時にカッと燃え上がった。
「誰か吉兵衛を引っ捉えろ!」奈良茂は自分で立ち上がった。
「早く剃刀《かみそり》を持って来い! 彼奴を坊主に剥《む》いてやる!」
吉兵衛は大形に頭を抱え座敷をゴロゴロ転がりながら、さも悲しそうに叫ぶのであった。
「お助けお助け! どうぞお助け! 髪を剃られてなるものか! ハテ皆様も見ておらずとお執成《とりな》しくだされてもよかりそうなものじゃ!」
「やい、これ、吉兵衛の二心め! よも忘れてはいまいがな! 今年の一月京町の揚屋で俺が雪見をしていたら、紀文の指図で雪の上へ小判をバラバラばら蒔いて争い拾う人達の下駄でせっかくの雪を泥にし
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