、池田屋斬込みの大事の際にも、とうとう参加しなかった。これが斬られる原因なのだが、その上に彼が溺《おぼ》れていた女が、どうやら敵方――つまり、長州の隠密らしいというので……」
「まあ、隠密?」
「うむ。それで、味方の動静が敵方に筒抜けになっては堪らぬと、近藤殿が涙を呑んで、わし[#「わし」に傍点]に斬ってくれというのだ。しかし私は『細木を斬ることばかりは出来ません。あれは私の親友ですから。……もし何うしても斬ると仰せられるなら、余人にお申付け下さい』と拒絶《ことわっ》たのじゃ。すると近藤殿は『親友に斬られて死んでこそ、細木も成仏出来るであろうから』と仰せられるのじゃ。そこで私も観念し、一夜、彼を、加茂河原へ連出し、先ず事情を話し『その女と別れろ、別れさえしたら、私が何んとか近藤殿にとりなし[#「とりなし」に傍点]て……』と云ったところ……」
ここで総司は眼をしばたたいた。
お力は唾《つば》を飲んだが、
「何と仰有いました?」
「別れられないと云うのだ」
「…………」
「そこで私《わし》は、では逃げてくれ、逃げて江戸へなり何処へなり行って、姿をかくしてくれと云うと、俺を卑怯者《ひきょ
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