うもの》にするのかと云うのだ。……もう為方《しかた》がないから、では此処で腹を切ってくれ、私が介錯《かいしゃく》するからと云うと、それでは、近藤殿から、斬れと云われたお前の役目が立つまいと云うのだ。私は当惑して、では何うしたらよいのかというと、お前と斬合ったでは、私に勝目は無いし、斬合おうとも思わない、私は向うを向いて歩いて行くから、背後《うしろ》から斬ってくれと云い、ズンズン歩いて行くのだ。月の光で、白く見える河原をなア。背後《うしろ》から何んと声をかけても、もう返辞をしないのだ。……そこで私は、……背後から只一刀で……首を!……綺麗に討《う》たれてくれたよ」
 息を詰めて聞いていたお力は(それじゃア永之丞さんは、話合いの上でお討たれなされたのか。……では総司さんを怨《うら》むことはないわねえ)と思いながらも、矢張り涙は流れた。その涙を隠そうとして、窓の方を向いた。すると、その窓へ、小石のあたる音がした。お力はハッとしたようであったが、
「蒸し蒸しするのね」
 と独言のように云い、立って窓際へ行き、窓を開けた。暈《かさ》をかむった月に照らされて、身長《せい》の高い肩幅の広い男が、窓の
前へ 次へ
全33ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング