たからじゃ、済まん』と、仰有《おっしゃ》ったじゃアありませんか」
「ふうん」
と総司は、いよいよ驚いたように、
「さようなこと申しましたかな。ふうん。……いや、心に蟠《わだかまり》となっていることは、つい眠った時などに出るものと見えますのう。……細木永之丞というのは、わし[#「わし」に傍点]の親友でな、同じ新選組の隊士なのじゃが、故あって、わしが討取った男じゃ」
「まア、どうして?……ご親友の上に、同じ新選組の同士を?」
「近藤殿の命令だったので……」
「近藤様にしてからが、同士の方を……」
「いや、規律に反《そむ》けば、同士であろうと隊士であろうと、斬って捨てねば……細木ばかりでなく、同じ隊士でも、幾人となく斬られたものじゃ。……近藤殿の以前の隊長、芹沢鴨殿でさえ――尤もこれは、何者に殺されたか不明ということにはなっているが、真実《まこと》は、土方殿が、近藤先生の命令によって、壬生の営所で、深夜寝首を掻《か》かれたくらいで。……だがわしは細木を斬るのは厭だったよ。永之丞は可《よ》い男でのう、気象もさっぱりしていたし、美男だったし……尤も夫れだから女に愛されて、その為め再々規律に反き
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