、怖《こわ》いかね」と、嘲笑《あざわら》いながら訊く者がある。
「怖くもなければ驚きもしない。いったい君は何者だね?」
「怖くないとは豪勢だね。が、しかしすぐに怖くなるよ。何者かと僕に訊くのかね。さあ僕はいったい何者だろう。僕が何者かはどうでもいい。僕は僕より偉大な者の使命を帯びて来たのだから、使命さえ果たせばいいのだよ」
 姿の見えない向こう側の男は、こう云ってまたも笑うのであった。張教仁は恐怖よりも怒りの方がこみ上げて来た。
「使命を帯びて来たんだって!」張教仁は怒鳴り出した。
「そんならご大層のその使命をさっさと果たすがいいじゃないか!」
「それなら、そろそろ果たそうかね。君のためには急ぐよりも、ゆっくりした方がいいのだがね」
 相手の男はまた笑った。
「その斟酌《しんしゃく》には及ぶまいて。君の方でゆっくりするようなら、僕の方で事件《こと》を急がせるまでだ!」
「事件を急がせるってどうするんだね?」
「君に飛びかかるということさ! 君を撲るという事さ!」
「なるほど、君は勇敢だね」
 眼に見えぬ男は、こう云うと、また例の厭な笑い方を、臆面もなくやり出したが、ちょっと改まった言葉
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