しょうよ」
 そこで二人は肩を並べ、螢火の飛んでいる静かな道を、十歩、二十歩、三十歩、と、先へズンズン歩いて行った。そしてとうとう数え数えて、三十歩の所まで来た時に、はたして事件が起こったのであった。事件というのは他でもない。ちょうどそこまで来た時に、紅玉《エルビー》が突然苦しそうな声で、
「誰か私を引っ張って行く! 眼には何んにも見えないけれど、誰か私を引っ張って行く! 遠くで私を呼んでいる! 誰が呼ぶのか解らないけれど!」
 こう叫びながら矢のように、往来を一散に走り出したのである。
 張教仁の驚きは形容することが出来なかった。しばらくは往来に立ったまま、紅玉《エルビー》の姿を見送っていたが、やがて一声叫ぶと一緒に、彼女の後を追っかけた。その走って行く男女の者を、見失うまいとその後から、もう一人追っかけて行く男がある。
 それはさっきの苦力であった。海の中のように蒼白い、月光の巷を三人の者は、マラソン競走でもするように、走り走り走り走り、とうとう姿が見えなくなった。

        十二

 紅玉《エルビー》を失った張教仁の、その後の生活は悲惨《みじめ》であった。燕楽ホテルの自分
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