っ張って行く! ……遠くで俺を呼んでいる! どいつが呼ぶのか解からないけれど!」
 叫びながら班長は、真白昼《まっぴるま》の、灘子《だんす》街の盛り場を一散に、電光のように走るのであった。
 不思議なことには、そうやって、班長は走って行きながら、全身をちょうど弓のように思うさま後方《うしろ》へ彎曲させて、彼を引き摺る眼に見えぬ力に、抵抗するようではあるけれど、先の力が強いと見えて、見る見るうちに彼の姿は、人波の中に消えて行った。
 しかも翌日彼の姿は屍骸となって皮肉にも警務庁の玄関に捨ててあった。屍骸には一つの傷もない。圧殺したような気振りもない。と云って毒殺の痕跡《あと》もなく、自殺したらしい証拠もない。ただそれは一個の屍体であった。傷がないばかりかその屍骸は掠奪されてもいなかった。官服《ふく》はもちろん懐中の金も一文も盗まれてはいなかった。そして屍骸の死に顔には「驚《おどろ》き」の表情はあったけれども「無念」の表情は少しもない。
 こういう不思議な殺され方で大道へ屍骸《むくろ》を晒らした者は班長ばかりではないのであった。先刻も云った通り政府筋の高位顕官が殺されたのみならず南方は広東
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