めるのでございます。羊皮紙に書かれたあの文字はきわめて簡単でございました。
[#ここで字下げ終わり]

 三回目の密書を読んだ時私はようやく決心した。球を盗もうと決心した。汽車中の出来事があって以来ラシイヌ達はこの私を極度にまでも信用して球の入れてある鉄の箱をついには私に預けさえもした。つまり彼らはこの私を同志の一人に加えたのであった。球を奪うことは容易であった。一夜、満月の明るい晩ついに私は目的をとげ、土耳古《トルコ》美人の住んでいる緑地《オアシス》へまで落ち延びた。常磐木、泉、土人の小屋、他には魚が泳いでいるし木々には小鳥が啼いている。緑地は住みよさそうに思われた。常磐木の間に祠《ほこら》がある。石の狛犬《こまいぬ》がその社頭に二匹向かい合って立っている。「沙漠の老人」と土耳古《トルコ》美人とは私を祠へつれて行って私に拝めと云った。無宗教の私は云われるままに祠に向かって三拝した。
 と老人が私に云った。「若者よ、これは吾らの神じゃ。吾ら羅布《ロブ》人の神なのじゃ。そして羅布《ロブ》人は回鶻《ウイグル》人じゃ。数千年の昔から今日まで他人種の血液を混じえずに純粋に残った回鶻《ウイグル》
前へ 次へ
全239ページ中75ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング