くように、「市長の書斎を掃きながら、贋物《にせもの》の女中が掃きすてたという、例の紙屑という奴が、その経文の一部ですな?」
「その紙屑を取り返すために、女中に化けて住み込んだり、燐光を放す狛犬を、人工で拵えておっ放し、市長を脅したってものさ」ラシイヌは悠々と説明した。
「私も贋物だと思いました」レザールはいくらか昂奮したが、「……つまり私はこの事件を、こんなように解釈しましたので……」
「話はゆっくり後で聞くが……君はいったい怪物を――燐光を放す怪獣を――何の贋物だと思ったかね?」
「恐らく犬か狼へ、燐光を放す薬品類を塗ったものだと思いました」
「犬か狼かいずれ直《じ》きに彼奴《きゃつ》の正体は解るだろう。……見たまえ見たまえ回鶻《ウイグル》人が、猛獣の檻を開いたから」
見ると彼らは四方に分かれ五つの檻の前へ立ち、パッと一斉に戸を開けた。そして烈しく叱咤した。
「シーッ、シーッ、シーッ、シーッ、シーッ、シーッー」
しかし猛獣は――獅子も虎も、容易に現われては来なかった。
が、その次の瞬間には、五つの檻から猛獣が――猛獣のような真っ黒のもの[#「もの」に傍点]が、吼《ほ》えながら一
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