時に現われて、回鶻人を取り囲み、彼らを捕えようとひしめいた。
 園内は回教徒と警官との格闘の庭と一変した。檻から出たのは警官であった。
「帰ろう」
 とラシイヌはゆっくりと門の方へ足を向けた。
「これでもう万事片づいた。後は警官に任せて置こう」
 レザールは何んとも云わなかった。ただ黙々と蹤《つ》いて歩く。
 警官の叱咤、回教徒の怒号、鳥獣の吠え声や啼き声で戦場のような動物園を、見返りもせず二人の者は正面の門から街へ出た。街には何んの異状もない。市民は眠っているらしい。
 その時、一台の自動車が、突然横手からあらわれた。警官が数人乗っている。
「とまれ!」とラシイヌは立ち止まって、片手を上げて合図をした。
「どこで怪獣は捕らえたな?」
 ラシイヌが笑いながらこう云うと、警官達も笑い出し、
「府庁へ行く道の中央《まんなか》で。……いや飛んでもない怪獣だ」
「レザール君、見るがいい。これが怪物の正体よ」
 ラシイヌはレザールを押しやった。
 自動車の中には東洋犬の毛皮を冠った人間が、昏々として眠っていた。
 レザールはその顔を見詰めたが、
「こりゃ園長のエチガライだ!」
「すなわち怪獣の正
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