上がった。
「それで安心いたしました」こう云って右手《めて》を差し出して、レザールにその手を握らせてから、レザールに扉口まで送られて、夫人は室から出て行った。
 レザールは椅子まで帰って来たが、さっきから黙って聞いていたダンチョンへその眼をふと注いで、
「どうだなダンチョン、この事件は? 面白い事件とは思わないかな?」
「面白そうな事件だね、どうやら怪物の正体が君には解っているようだね」
「まあそういったところだろう」レザールは腕を組みながら、独り言のように云いつづけた。「市長は有名な探検家で……新疆省へも行った筈だ… ROV《ロブ》 の沙漠……埋もれた都会……それからそうだ湖だった……エチガライという変な男……それ前に狛犬があったっけ……怪しい女中……紛失した紙片……燐光の怪獣に市長の気絶……そして市長は心臓病だ……巨万の富を有している――どうだなダンチョン、これだけの事実がこれだけ順序よく揃っていたら、君にだって真相は解るだろう?」
「ところが僕には解らない」
「よっぽど君は鈍感だよ。しかし素人だから仕方がない。……ところで夫人の話しの中で、怪しいと思った人間が君には一人もなかった
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