かな?」
「エチガライという男が怪しいね」
「すなわち動物園長だ! 動物園長が怪しいと見たら君はどういう処置をとるね?」
「何より先に動物園へ行って、園長の様子をうかがうね」
「まずそれが順序だろう……ところで既にラシイヌさんが動物園へは行ってる筈だ……もうすぐ電話のかかる頃だ」
 そういう言葉の終えないうちに、卓上電話のベルが鳴った。
「そうら見たまえ! 云った通りだ」
 レザールはいそいで受話器を取った。
「モシモシ」と彼は呼びかけた。「ラシイヌさんでございますか? ……私はレザールでございます。あなたから電話のかかるのを待ちかねていたのでございますよ……え、何んですって? 市長夫人? 市長夫人でございますか? 市長夫人はさっき参って今帰ったばかりでございます。大分心配しておりました……それで、事件の真相は、解決なすったのでございましょうね? ……今まで手がけた事件のうちでこんな楽な事件はございませんので。全く一目瞭然です……ところで、ところで……え、何んですって? 私を馬鹿だとおっしゃるので?」レザールはひどく驚いて耳へあてた受話器を下へ置いた。がまたあわてて耳へあてた。ラシイヌ
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