三十人の人影は一言も物を云わなかった。彼らは一切無言のまま彼らの仕事を続けて行った。支那青年の腕の中から彼らは女を奪い取った。怒って飛びかかる青年を、五、六人がかりで押さえつけた。その時大きな真っ黒の箱が彼らによって運び出され、面紗《ヴェール》の女は彼らの手でその箱の中へ入れられた。それと見たダンチョンはその箱へ飛鳥のように飛びかかった。すると彼らは十人あまりでダンチョンを箱から引き離した。その拍子に箱の蓋《ふた》が取れた。と、見よ! 箱の内部には、仔牛ほどもある猩々が、堅く鉄鎖で縛られながら、気絶したまま倒れている面紗の婦人の枕もとに居然と坐っているではないか!
 蓋はすぐに蔽われた。その箱を彼らは引っ担ぎ、黄浦河の方へ走って行く。往来に無残に打ち倒された支那の青年はそれを見ると、よろめきよろめき立ち上がったが、
「紅玉《エルビー》、紅玉《エルビー》、おお紅玉《エルビー》!」
 こう叫びざままた倒れて、そのままぐったり動かなくなった。どうやら気絶したらしい。気絶した彼のすぐ傍《そば》には、これも気を失ったダンチョンが、無態《ぶざま》の姿《なり》をして倒れている。
 さて、ラシイヌはど
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