ございますので、燐光を放す怪獣が二度と窓の辺へ来ないように、致したいのでございますけれど、しかしこれを警視庁へ届け、警官の方に来て戴いて邸宅《やしき》を守ってなどいただいては、事があんまり大仰になり、世間一般に知れましたら良人が意気地なしに見えますし……」
「いかにもさようでございますね――世間一般に知れますより、敵党の連中に知られることが閣下にとっては不得策の筈で」
 レザールは片眼をつむり[#「つむり」に傍点]ながら、少し皮肉に云ったものである。
「はいその通りでございます……良人《おっと》が市長になるに付いては大分反対者がございまして、選挙も苦戦でございました……ですから良人が今になって心臓の悪い病人だなどと敵党の人達に知られましたら、乗ぜられないものでもなし、それに犬のようなそんな獣に脅かされたなどと思われましたら、市長の威厳に関しますので」
「それで私達民間探偵にご依頼なさろうとなすったので? いやよく事情はわかりました。出来るだけお力になりましょう」
「どれほど費用はかかりましても、その点はご心配くださいませんように」
 夫人は云って口ごもった。レザールは頷いたばかりである
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