もなく、ただ米租界は紛然として、繁昌[#「繁昌」は底本では「繁晶」]を通り越して騒がしかった。街々を歩いている人々には、印度《インド》人もあれば、土耳古《トルコ》人もある。煙草《たばこ》ばかり吹かしている洪牙利《ハンガリー》人や、顔色の黒いヌビヤ人や、身長《せい》の高くない日本人や、喧嘩早い墨西哥《メキシコ》の商人などが、黄金《かね》の威力に圧迫され、血眼《ちまなこ》になって歩いている。各国の領事館や銀行の立派な建築《たてもの》が街々に並び、倉庫、桟橋、郵便局などが、到る所に並んでいる。上海の本当の持ち主の支那の商人は米租界でも最も狡猾なるあきゅうどとしてどこへ行ってもうよついている。
ラシイヌはゆるゆる歩きながら、左右の光景を眼で眺め、湧き起こる音響を耳で聞き、先へ先へ進んで行った。
しかしやっぱり聞きたいと願う、その唄声は聞こえなかった。こうして彼は米租界をも、失望をもって通り過ぎた。そして今度は足を早めて、いよいよ目的の県城の方へ、彼はズンズン進んで行った。
街《まち》は次第に寂しくなる。そして道路の不潔さは、ラシイヌの眼を顰《ひそ》めさせる。
城内と城外とを距てている城
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