壁の前まで来た時に、いつもながら彼は感嘆してしばらく立って眺めていた。城壁の周囲三十支那里、磚瓦《せんが》をもって畳み重ね、壁の上には半町ごとに厳しい扶壁が作られている。長髪賊の乱の時初めて備えられた大砲が、扶壁に残ってはいるけれど、ほとんど使用に堪えないまでに青黒く砲身が錆びている。城壁に沿うて丈なす草が、人に苅られず生い茂り、乏しい紅白の草花が咲いているのも野趣がある。昔、戦国の世の時代に、養う食客三千人と、世上の人に謳《うた》われた、春申君と申す人の、長く保った城である。城には七つの郭門《もん》がある。郭門《もん》は城内の旧市街にいずれも通じているのであって、道台衙門のある所はすなわち東大門内である。知県衙門のあるところは小東門内の中央である。
日没を合図に内外の市街《まち》は――県城内の旧市街と県城外の新市街とは、交通を遮断する掟《おきて》であってその日没も近づいているので、ラシイヌは郭門の一つから城内へ急いではいって行った。城内の街の狭隘《せま》さは、二人並んで歩くことさえ出来ぬ。凸凹の激しいその道には豚血牛脂流れ出しほとんど小溝をなしている。下水の桶から発散する臭気や、葱
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