斯う云うとスックと立ち上がり、スタスタ往来の方へ足を運んだが又口から穢物を吐き出した。併《しか》し老僧は見返りもせず、門から外へ出て行った。と最う姿は見えないのである。
「お気の毒にもご老僧は未お体が悪いと見える」――斯う云い乍ら門の方を暫く純八は見送ったが、軈て僕《しもべ》の八蔵を呼んで其穢物を掃除させた。
 八蔵は何か口の中でぶつぶつ不平を云っていたが、主人の命令に従って鍬で其辺の土を掻いた。カチリと鍬の刄に当たるものがある。見ると手頃の銀環である。その銀環をぐい[#「ぐい」に傍点]と引くと、革袋の口が現れた。
「これは不思議」と縁から下りて、純八も八蔵へ手を貸して、共に銀環を引っ張った。二人の力を合わせても、革袋は動こうともしないのである。つまり夫《そ》れ程重いのである。
「何が這入って居るのであろう?」
 純八は好奇心に促され、引くのを止めて短刀を抜き、袋の口を切り払ったが、その瞬間に鋭い悲鳴が「が――ッ」と切口から聞えて来た。併し不思議は夫ればかりで無く、見よや巨大の袋の中には黄金ばかりが張ち切れる程に一杯に充ち満ちているではないか!
「偖こそ昨日の老僧は仏菩薩の化身であっ
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