の中を」松太郎は千斎に斯う云った。千斎は手を揮《ふ》り、顔色を変えたが、
「滅相も無い事仰せられるな。迂濶にそんな事為ようものなら、それこそ悪神の怒りに触れて、どのような兇変を受けようも知れぬ。お止めなされい! お止めなされい!」
すると松太郎はカラカラと笑い、
「たかが妖怪ではござらぬか。何んの兇変など受けますものか」
「いやいや夫れは広言というもの。現に此処に純八殿が災難を受けられたではござらぬか」
「拙者の言葉が広言とな?」松太郎は苦い顔をしたが、自然言葉も荒くなり、「広言か否かは試した上の事! 憚ながら此松太郎には、五分の隙もござらねば、妖怪の魅入る可き道理ござらぬ!」
すると今度は純八が、ムッとしたような顔をしたが、
「これは筒井殿お言葉じゃ、然らば拙者には魅入られるような、武道の隙間ござったのかの?」
「左様」
と、売言葉に買言葉、つい松太郎は云い切った――
「左様、隙間があったればこそ、魅入られたのでござろうがの」
「益々以って異なお言葉、親友とて聞捨てならぬ! 先ず聞かれい筒井殿、これが人間と人間との、相対太刀討又は議論に、打ち敗かされたと申すなら、いかにも武道不
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