どこかで鶯の声がした。
将に閑室余暇ありであった。
×
「お前は飛行出来るかな?」
或る時秀吉が五右衛門に訊いた。
「自由自在でございます」
これが五右衛門の返辞であった。
「俺を連れて飛べるかな?」
「いと易いことでございます」
「都は祇園会で賑わっているそうだ。ひとつ其奴《そいつ》を見せてくれ」
「かしこまりましてございます」
五右衛門はこう云うと懐中から、鳶の羽根を取り出した。
「いざお召し下さいますよう」
それから後の光景は、こう古文書に記されてある。
「……雲の原へとぞ上りける。遙の下を見給へば、蒼海まん/\として、魂をひやせり。我にもあらぬ心地にて、なにと成りゆくやらんと覚しにける。かくて尽きぬとおもう時に、目をおきて見給へば、ほどなく大山に立りける杉の上にぞ落着ける。殿下こゝはいづくの国、いかなる所ぞと宣まへば、是こそ都の西山、愛宕山と申処にて候、祇園会もいまだ始まらず候間、いま暫|爰《ここ》におはしまして、ご休息有べし、さりながら、何にても食事の望に候はんまゝ、是にしばしまたせ給へ、とゝのへてきたり候はんとて、つゐ立ちけるとおもへば、く
前へ
次へ
全24ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング